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2009-11-17 (Tue)

若奥様、もういいかげん降りて下さいの体験談

 人間、外見から精神状態を見極めるのはむずかしい。朝10時の羽田空港から、30すぎくらい和服の女性がタクシーに乗ってきた。20年トライバーをやっているベテランのⅠさんも「おっ」と思うくらいの日本的な美人。

 行き先は世田谷区のS神社。おっとりとした上品な若奥様風である。だがタクシーが神社に近づくと、だんだん様子がおかしくなってきた「もうちょっと先」いわれるままに、車を走らせてもなかなか目的地に着かない「お客さん、場所がわからないんですか?」Iさんが聞くと彼女は憤然となった。


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  「わかるわよ。うちなんだから。もうちょっと先行って」

 上品な若奥様なんてとんでもない。その口調は完全な酔っぱらい。しかも午前から飲んでいる様子。だがⅠさんは彼女のいう「もうちょっと先」に従うしかない。れを繰り返している間に車は環状8号線に出た。

 でも彼女がいうのは、やはり「もうちょっと先」しばらく走る東名高速入り口が見えた。すると彼女、何を思ったのか「あれに乗って」(どうなるんだ?) 

  Iさんはヒヤヒヤしながら、高速道路に入った。川崎、横浜、ときても彼女は「もうちょっと先」をいい続ける。厚木を経て大井松田を抜けついにタクシーは御殿場まできてしまった「お客さん、そろそろ酔いも覚めたんじゃないですか?」

 Ⅰさんが優しく聞くと後ろの彼女、うなずいてやっと「高速、降りて」といった。そしておとなしく東京に戻るのかと思いきや「お寿司が食べたい運転手さん、おごるからつきあって」

 妙なことを頼んでくる。Ⅰさん、おなかも空いていることだし「いいですよ」と承知した。彼女は何もいわずに寿司を食べ、勘定を払って店を出た。さすがにこれで帰るだろうと、Ⅰさんがタクシーに戻ったとたん、彼女がスッーと腕に手を回してきた

 「ねえホテルない?行きましょうよ」場所は御殿場、あたりはホテルだらけだ。Ⅰさんだってオトコである。だがこの手の据え膳は食ったあとがコワイ。

 彼は、思いきり落ち着いた声でさとした「からかうのもいいかげんにしてください。もう帰りましょう」すると彼女、急にしゅんとなり、おとなしくタクシーに乗り込んで行った。その帰り道、彼女がポッリ、ポッリと話すのを聞いたⅠさん、やっとこのナゾの行動が理解できた。

 実はその彼女は〝愛人さん”大阪にいるダンナを訪ねて行ったが、奥さんが放してくれないらしく東京に帰された。それがくやしくてたまらない。お酒を飲んでウサを晴らそうとしたが、おさまらない。そこであてつけに浮気してやろうと思ったとか。

 東京に着いて、今度はちゃんとS神社で降りた彼女、最後にしみじみとこう語った「運転手さんがマジメな人だったから、あたしもバカなことをしなくてすんだのね」往復5万円強の料金を払った彼女のサイフは、ヴィトンの男物。

 その中にぎっしりお札も入ってる。どうやらダンナは、相当の金持ちの様子だ。どうりでこんな美人を愛人にできるわけである。

「あまりヤケを起こさないで、自分を大切にしてくださいよ」Ⅰさんも、先生か兄のように答えたが(やっぱり、ちょっと惜しかったかな)と複雑な心境になってしまったのだった。


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最終更新日 : 2019-10-27

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