そもそもこんなメンヘラ人妻と付き合うつもりは無かったのだが、逃げ切れずに今も一緒に居る。メンヘラ女は今年40になる看護師の美奈。黙っていれば見た目は悪くない。
小柄な美奈は実年齢より若く見えるし、服装もお洒落だ。実際に俺も初対面では良い女だと思っていた。美奈とは後輩の高橋が始めたバーの開店祝いのパーティーで出会った。
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開店祝いには歳がだいぶ下の後輩の友達やその更に後輩が詰めかけ、若い連中が騒がしく俺は白けて退屈を持て余しビールの瓶を片手に騒がしい店を出て、店の前のベンチに腰掛けて煙草を吸いながら店内の喧騒をガラス越しに眺めていた。
店の扉が開くと、白いワンピースの女がやはり片手にカクテルグラスを持って出てきた。辺りを見渡し俺の座るベンチの空きを認めると、こちらに真っ直ぐ歩いてくる。
女は俺と目が合うと、少しおどけた表情を浮かべて微笑みながら、店の中うるさ過ぎて逃げて来ちゃったと話しかけて来た。俺は確かに。内輪で騒いでて全く入れないですね。と答えてから礼儀として煙草を吸ってて構わないかと尋ねると構わないと言う。
俺は店主の高橋が学生時代の後輩である事を話すと、彼女は高橋が以前勤めていた店の常連客だった事などを話し始めた。店から2人、軽薄な感じの男たちが出て来た。美奈さんここに居たんですかー。
戻りましょうよ、タクヤが来ましたよと俺の存在を全く無視してベンチ前で美奈に話しだす。美奈が中は煩いからここで良いと答えたが男達はしつこく店内に入れと誘う。
美奈は、ここでゆっくり呑んでるから良いわ、あなた達は戻って。と男達の強引な誘いを固辞する。すると、2人組の片方の茶髪にピアスした堅太りの男がTシャツの袖からタトゥーをチラつかせて俺と美奈の間にドッカリと腰を下ろした。
失礼な若者の不遜な態度に腹が立ち、何か一言言ってやろうかと思ったが、後輩が苦労して開店した店のパーティーの席だ、言葉を飲み込みビールを煽ると美奈の声が響いた。
ちょっと!あっち行けって言ってんの分からないの?貴方みたいな頭悪いのに話しかけられるだけでも不愉快なの。あっち行って騒いで来てよ。
茶髪のタトゥー男は美奈の剣幕に怯み黙り込んだ、貴方みたいな品の無いのに近くに寄られるだけでも気分悪いの、さっさとあっちに行ってよ。聞こえないの?
茶髪はそそくさと立ち上がり何やらごちゃごちゃ小声で悪態をついて連れの貧相な長髪の若者と店に戻って行った。彼等が店内に戻るのを見届けると美奈はこちらに向き直って本当に失礼ですよね。ごめんなさい。と謝ってくる。
俺は君が謝ることじゃないと返したが美奈は更に続けて、なんか騒ぎたいだけで何も中身が無いのあの連中。私、色々あって寂しいときがあって、あんなくだらない連中と騒いで紛らわしてた時期があって。
そんな時期の私のこと心配してくれて立ち直るきっかけをくれたのが高橋さん。あの連中とも会わなくなって店にも行かなくなってたけど、高橋さんが独立して店を出すと言うから。今日来たけど。
そうだったんですかと俺が答えた時に店の扉が開いてスーツ着た男が美奈!と言ってこちらに歩いて来た。恰幅が良く、仕立ての良さそうなスーツ、自信過剰な印象の男は俺を一瞥してからやはり俺には挨拶することも無く美奈、久しぶり元気だった?と美奈の前に仁王立ちで話しかけている。
美奈はタクヤ。そうね久しぶり。元気にしてるわとスーツ男を見上げて答える。この男がさっき軽薄2人組が言ってたタクヤかと俺は思った。タクヤは中入れよ、少し話そう。
と美奈の手を引く。美奈がちょっと!と言ってその手を振り解き俺に向き直り、今こちらの人と話してるのと言う。スーツは俺に向き直り上から下まで舐めるような視線を送り俺を値踏みするような目でぺこっと頭を下げた。俺も会釈で返す。
美奈は久しぶりにお酒飲んだから少し酔ったから風に当たりたいの。もう少しここで休んだら戻るから中で待っててよ。とスーツに告げた。
スーツは渋々了承し、すぐ来いよと振り返って言うと店の中に消えた。美奈は俺に肩をすくめて嫌な男。あんな男とくっついてたなんてどうかしてたのね私。と言う。
名前もまだ聞いてなかった。と美奈が俺に言う。俺はそうだった梅沢です。と答える。美奈は梅沢さん…梅ちゃんだとクスッと笑い、いたずらっぽい視線を投げてくる。
梅ちゃん。提案があるんだけど。この店に、まだ居たい?と俺に尋ねる。俺は騒がしくて落ち着かないから店を変えて飲み直しに行こうかと思っていると答えると賛成。と俺に笑いかけながら答え、ひとつお願いがあるの。と切り出した。
私、手ぶらで此処に出てきて。ハンドバッグをお店の高橋くんに預けてあるの。斉藤美奈のハンドバッグ高橋くんに言って取ってきてくれない。店に入ってあの連中に捕まるの嫌なの。ハンドバッグ取って来たら一緒に飲み直さない?お礼に一杯奢るわ。
これがメンヘラ気味で可愛くて、怖くて、いい加減で、脆くて、強い人妻の美奈との出会いだった。この小悪魔にそれから振り回されっぱなしの俺のここ2年の始まりだった。
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小柄な美奈は実年齢より若く見えるし、服装もお洒落だ。実際に俺も初対面では良い女だと思っていた。美奈とは後輩の高橋が始めたバーの開店祝いのパーティーで出会った。
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店の扉が開くと、白いワンピースの女がやはり片手にカクテルグラスを持って出てきた。辺りを見渡し俺の座るベンチの空きを認めると、こちらに真っ直ぐ歩いてくる。
女は俺と目が合うと、少しおどけた表情を浮かべて微笑みながら、店の中うるさ過ぎて逃げて来ちゃったと話しかけて来た。俺は確かに。内輪で騒いでて全く入れないですね。と答えてから礼儀として煙草を吸ってて構わないかと尋ねると構わないと言う。
俺は店主の高橋が学生時代の後輩である事を話すと、彼女は高橋が以前勤めていた店の常連客だった事などを話し始めた。店から2人、軽薄な感じの男たちが出て来た。美奈さんここに居たんですかー。
戻りましょうよ、タクヤが来ましたよと俺の存在を全く無視してベンチ前で美奈に話しだす。美奈が中は煩いからここで良いと答えたが男達はしつこく店内に入れと誘う。
美奈は、ここでゆっくり呑んでるから良いわ、あなた達は戻って。と男達の強引な誘いを固辞する。すると、2人組の片方の茶髪にピアスした堅太りの男がTシャツの袖からタトゥーをチラつかせて俺と美奈の間にドッカリと腰を下ろした。
失礼な若者の不遜な態度に腹が立ち、何か一言言ってやろうかと思ったが、後輩が苦労して開店した店のパーティーの席だ、言葉を飲み込みビールを煽ると美奈の声が響いた。
ちょっと!あっち行けって言ってんの分からないの?貴方みたいな頭悪いのに話しかけられるだけでも不愉快なの。あっち行って騒いで来てよ。
茶髪のタトゥー男は美奈の剣幕に怯み黙り込んだ、貴方みたいな品の無いのに近くに寄られるだけでも気分悪いの、さっさとあっちに行ってよ。聞こえないの?
茶髪はそそくさと立ち上がり何やらごちゃごちゃ小声で悪態をついて連れの貧相な長髪の若者と店に戻って行った。彼等が店内に戻るのを見届けると美奈はこちらに向き直って本当に失礼ですよね。ごめんなさい。と謝ってくる。
俺は君が謝ることじゃないと返したが美奈は更に続けて、なんか騒ぎたいだけで何も中身が無いのあの連中。私、色々あって寂しいときがあって、あんなくだらない連中と騒いで紛らわしてた時期があって。
そんな時期の私のこと心配してくれて立ち直るきっかけをくれたのが高橋さん。あの連中とも会わなくなって店にも行かなくなってたけど、高橋さんが独立して店を出すと言うから。今日来たけど。
そうだったんですかと俺が答えた時に店の扉が開いてスーツ着た男が美奈!と言ってこちらに歩いて来た。恰幅が良く、仕立ての良さそうなスーツ、自信過剰な印象の男は俺を一瞥してからやはり俺には挨拶することも無く美奈、久しぶり元気だった?と美奈の前に仁王立ちで話しかけている。
美奈はタクヤ。そうね久しぶり。元気にしてるわとスーツ男を見上げて答える。この男がさっき軽薄2人組が言ってたタクヤかと俺は思った。タクヤは中入れよ、少し話そう。
と美奈の手を引く。美奈がちょっと!と言ってその手を振り解き俺に向き直り、今こちらの人と話してるのと言う。スーツは俺に向き直り上から下まで舐めるような視線を送り俺を値踏みするような目でぺこっと頭を下げた。俺も会釈で返す。
美奈は久しぶりにお酒飲んだから少し酔ったから風に当たりたいの。もう少しここで休んだら戻るから中で待っててよ。とスーツに告げた。
スーツは渋々了承し、すぐ来いよと振り返って言うと店の中に消えた。美奈は俺に肩をすくめて嫌な男。あんな男とくっついてたなんてどうかしてたのね私。と言う。
名前もまだ聞いてなかった。と美奈が俺に言う。俺はそうだった梅沢です。と答える。美奈は梅沢さん…梅ちゃんだとクスッと笑い、いたずらっぽい視線を投げてくる。
梅ちゃん。提案があるんだけど。この店に、まだ居たい?と俺に尋ねる。俺は騒がしくて落ち着かないから店を変えて飲み直しに行こうかと思っていると答えると賛成。と俺に笑いかけながら答え、ひとつお願いがあるの。と切り出した。
私、手ぶらで此処に出てきて。ハンドバッグをお店の高橋くんに預けてあるの。斉藤美奈のハンドバッグ高橋くんに言って取ってきてくれない。店に入ってあの連中に捕まるの嫌なの。ハンドバッグ取って来たら一緒に飲み直さない?お礼に一杯奢るわ。
これがメンヘラ気味で可愛くて、怖くて、いい加減で、脆くて、強い人妻の美奈との出会いだった。この小悪魔にそれから振り回されっぱなしの俺のここ2年の始まりだった。
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最終更新日 : 2021-12-30