嫁と出会ったのは俺が22歳の時。俺が就職した会社の総務部で、鉄仮面のアダ名で有名な無愛想な人だった。冗談言っても笑いもせず、表情が全く変わらない為にそう呼ばれていた。
俺は入社した時から綺麗なのにもったいないと思っていた。会話をしても必要な内容のみで無駄話は一切しない、本当に機械的な人だった。その人が入ってから3年経っても趣味や好みの話もろくにしないので、会社の中でも特に浮いていた存在だった。
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俺が入ってから半年位経った10月の休みに、ロードバイクで少しそこまでと100km先のラーメン屋まで出かけようと近所を走っていたら、嫁が道路の脇で困った顔して佇んでいた。初めて見た嫁の感情のある顔に驚きながらも本当に困った顔をしていたので声をかけた。
ロードバイクがいきなり変速しなくなったのでどうしたらいいか分からないと途方に暮れていたらしく、俺が少し見て原因を突き止めて直したらホッと安心した表情になった。
あまりにも可愛い表情に俺が「嫁さん、その表情可愛いっす」と言ったら嫁は一気に顔を赤くして「まじまじと見るな!」と一喝。でもサイクルジャージはピンクが多いカラフルで可愛いスカート付きのジャージ。
多分可愛い色が大好きなんだろうなぁと思った。そして褒められる事に慣れていないんだろうなぁとも思った。その件があった最初の出勤日に嫁から呼び出された。会社の資料室で会った時はいつもの鉄仮面に戻っていた。
何を言われるか少しビクビクしていたら「この前はありがとう、これからもよろしく」とだけ話して立ち去っていった。いきなりの事で半分頭がついていかなかったが、嫁は無表情じゃなくて単に表現が不器用なだけなんだと気付いた。
それから休日はロングライドに誘ったり、会社でもすれ違う時に一声かけたりと、嫁に対して出来るだけ声を掛けた。だんだん嫁もうち解けてきて、2ヶ月もすると嫁の方からもお誘いが来るようになった。
ある日、嫁から飲みに誘われて個室の居酒屋で飲んでいたら、嫁が自分がなぜ感情が乏しいのか話を始めた。子供の頃に父親から暴力を振るわれて両親は離婚。育ててくれた母親も嫁が就職した年に他界。
仲のいい人もいないから無表情になるのが一番楽な事に気付いて、自分の感情を殺してルーチンの生活をするようになった。寝て食べて働いてたまに運動して寝る。ロードバイクも健康維持の為だけにただ乗っていただけだったらしい。
そんな中、俺が来て歯の浮くようなセリフをかけられたりロングライドや食事の誘いを受ける度に自分の中から殺していた感情が湧き出てくるようになったそうだ。
今まで言われた事の無いような褒め言葉は特に嬉しかったらしく、いつの間にか俺を目で追うようになり、気になる異性として見るようになった。会社では無表情を装えるけど、私生活では自然と笑顔が出てくる。
俺と出会ってから人生が変わったとまで嫁は言い切った。感情の高ぶりからか、涙をポロポロ溢しながら俺に思いの丈をぶつける嫁に、俺はただ聞くしかなかった。その居酒屋で、嫁から好きだと告白されて俺は快諾。
「無表情の中から助けを呼ぶ声がしたんだ」なんて痛いセリフを言ったら「私以外に通用すると思うなよw」と小馬鹿にされた。付き合うようになってからというもの、仕事中は凛とした格好良い表情になり、2人きりの時はデレデレと甘えてくる可愛い表情。
“父親に甘えた事が無かったから、男の人に甘えるのが夢”と聞かされた時はこんなギャップなんて反則だと思った。会社の同僚から鉄仮面に何があったのか聞かれたが、まだ付き合ってる事を誰にも話していなかったので知らんとトボけた。
その2週間後くらいにIKEAでデートしてる所を見られ、一気に話が広まったが「物好きだな」と言われた程度で他は何も無かった。物好きで良かったと思った瞬間でもあった。今年6月に結婚して今も凄く幸せです。ちなみにクーデレの破壊力は恐ろしいです。
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多分可愛い色が大好きなんだろうなぁと思った。そして褒められる事に慣れていないんだろうなぁとも思った。その件があった最初の出勤日に嫁から呼び出された。会社の資料室で会った時はいつもの鉄仮面に戻っていた。
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最終更新日 : 2018-07-05